会長挨拶(第5代会長:三成美保)
2024年5月
昨年9月に日本ジェンダー学会の会長に選任された三成美保です。会長として、一言ご挨拶させていただきます。
20世紀には「男女平等」が目指され、欧米では何度もフェミニズムの波が生じ、その動きはアジア・アフリカ諸国にも広がりました。21世紀の課題は「ジェンダー平等」です。21世紀のジェンダー平等は、「女性・女児のエンパワメント」「男性・男児のマスキュリニティ(男性性)規範からの解放」「LGBTQの尊厳の保障」の三つを柱としています。ジェンダー平等はすべてのひとの尊厳に関わる人権課題であると同時に、経済的課題でもあり、持続可能な市民社会を実現するための社会的課題なのです。
日本ジェンダー学会が成立したのは1997年でした。1990年代の日本では、社会も政府も、国際社会のジェンダー主流化に後れを取らぬよう懸命に取り組みを進めていました。その最大の成果が、1999年に成立した男女共同参画社会基本法です。同基本法は、その前文で男女共同参画、すなわちジェンダー平等の実現を「21世紀の最重要課題」とうたっています。実際に、その後、ジェンダー平等を目指す法律がいくつも成立し、内閣府男女共同参画局を中心に政策の取り組みも進められてきました。
しかし、21世紀初頭のいわゆるジェンダーバックラッシュと性教育バッシングによって、日本のジェンダー平等は大きく停滞してしまいした。21世紀がほぼ四半世紀過ぎたというのに、女性国会議員比率(衆議院)はわずか10.3%(世界186か国中164位)。世界平均26.9%、アジア平均21.4%を大きく下回っています(2023年)。このようなジェンダー平等の停滞は、わたしたちの生活と生命を直撃しています。コロナ禍では女性の経済的危機が深刻化し、少子化には歯止めがかからず、一人暮らしの高齢者が増えることが明らかであるにもかかわらず、有効な手立ては講じられていません。
ジェンダー平等社会の実現に向けた法的・政策的課題はきわめて多く、それを分析し、提言するための学術研究の役割はいっそう差し迫ったものとなっています。たしかに、今日、ジェンダー研究は学際的学問としては自立したと言えます。しかしながら、既存の学問においてジェンダー視点が共有されているかというと、必ずしもそうは言えません。「ダイバーシティ」や「エクイティ」という言葉にジェンダー平等が包摂され、未達成のジェンダー課題が不可視化される傾向も見られます。
ジェンダー研究は、社会課題の「発見の学」であり、既存知識の「組み替えの学」であり、未来志向の「救済の学」です。本学会の学際的特徴を活かし、今後とも社会と学術に貢献する学会であるよう努力を続けていきたいと思います。今後とも、日本ジェンダー学会の活動にご協力をいただきますよう、心よりお願い申し上げます。